薬機法違反とは?知らなかったでは済まされない!違反時の罰則と企業が取るべき対策を徹底解説
薬機法とは?その目的と規制対象
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)は、国民の生命および健康の保護を目的として、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品などを対象に、製造・販売から広告、保管・輸入に至るまでの幅広い行為を規制する法律です。かつては「薬事法」として知られていましたが、2014年の改正により「薬機法」となり、再生医療等製品の登場や国際的な製品流通に対応した枠組みへと進化しました。
規制の対象となる製品は、主に以下のとおりです。
・医薬品(処方薬、市販薬)
・医薬部外品(殺菌消毒剤、薬用化粧品など)
・化粧品(スキンケア用品、メイクアップ製品など)
・医療機器(診断装置、治療用機器など)
・再生医療等製品(細胞加工製品など)
これらの製品は、名称や販売形態ではなく、その成分、効果、使用目的に基づいて薬機法上の分類がなされます。そのため、企業が「これは化粧品だから規制の対象外だ」と判断していた製品が、実は医薬部外品に該当していたというケースもあります。分類の誤りは、後述するような広告違反や無許可販売といった重大な違反につながるため、事業者には製品内容の正確な把握が求められます。
また、薬機法の規制は単に製品の内容だけでなく、それに関わる事業活動全般に及びます。製造・販売には行政の許認可が必要であり、適正な表示や広告の基準も定められています。特に近年は、EC(電子商取引)サイトやSNS、インフルエンサーを通じたプロモーションが一般化しており、これらが薬機法上の「広告」と判断される場合、表示内容が厳しくチェックされます。
さらに、海外企業や個人事業者であっても、日本国内の消費者を対象に製品を販売している場合には、薬機法が適用されることがあります。
越境EC(国境を越えた電子商取引)とは、インターネットを利用して国境を越えて商品やサービスの売買を行う取引形態を指しますが、越境ECでは、海外の事業者が日本の消費者向けに日本語のウェブサイトを開設し、商品やサービスを販売するケースが多く見られます。消費者は、相手方事業者が外国に所在していることを認識しないまま取引を行う場合もあります。越境ECにおいては、偽物や模倣品の販売、商品未着、契約の解約など、消費者トラブルが多発しており、注意が必要です。
薬機法違反の主なケース
薬機法は、製品そのものの品質・安全性だけでなく、それを扱う企業の行為そのものを厳しく規制する法律です。違反があった場合には、刑事罰、課徴金、行政処分といった厳しい制裁が科される可能性があります。
無許可・無登録での事業運営
薬機法に基づき、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品を「製造」、「販売」、「輸入」する事業者は、所管官庁(通常は都道府県)からの許可または登録が必要です。許可区分は多岐にわたり、「医薬品製造業許可」、「医療機器販売業許可」、「化粧品製造販売業許可」など、製品の種別や事業形態に応じて異なります。
例えば、海外から化粧品を仕入れて日本国内で販売する場合、そのまま越境ECで個人輸入扱いとして販売することと、国内で在庫を持って販売することとでは法的扱いが異なります。
前者が医薬品等を業として輸入し製造販売または製造する場合に該当するとなると、製造販売業許可または製造業許可等が必要です。輸入時には、製造販売承認書や業許可証の提示が求められます。
後者は「製造販売業者」とみなされ、所定の許可がなければ違法です。また、許可を取得している場合でも、業態変更や取り扱い品目の変更があった際に適切な届出・変更手続を怠ると、事実上の無許可営業とみなされる可能性があります。特にスタートアップ企業や個人事業主の場合、制度の理解不足により意図せず違反に該当するケースが少なくありません。
広告規制違反
薬機法では、医薬品等の広告についても極めて厳格なルールが定められています。基本的には以下のような広告が禁止されており、違反すれば行政指導や刑事罰の対象となります。
(1)虚偽・誇大広告の禁止(66条)
・承認された効能・効果を超える表現(例:「がんが治る」、「副作用ゼロ」)
・客観的根拠のない誇大表現(例:「奇跡の若返り」、「日本一効く」)
・医師や専門家の推薦を偽って掲載する行為
・一般用医薬品の過剰な不安喚起(例:「飲まないと危険」)
(2)承認前医薬品等の広告禁止(68条)
(3)特定疾病用医薬品等の広告制限(67条)
がん等の特定疾病用医薬品について、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告を制限
違反の対象は、Webサイト、チラシ、ポスター、SNS投稿など、あらゆる媒体に及びます。たとえ事業者自身が発信していなくても、インフルエンサーが企業から報酬や商品提供を受けて投稿した場合、それが「広告」とみなされれば薬機法の規制対象になります。
また、薬機法上「広告」とされる要件は
(1)顧客を誘引する意図があること(誘引性)
(2)特定の商品名が示されていること(特定性)
(3)誰でも認識できる状態にあることの(認知性)
3要素で判断されます。つまり、いわゆるステルスマーケティングやランキングサイト、比較記事などでも、実質的に広告と判断されれば規制対象です。
企業としては、広告制作段階から薬機法を熟知した法務・薬事担当者の確認プロセスを設けるとともに、第三者を通じたプロモーションにおいてもガイドラインや契約上の注意事項を徹底すべきです。
医薬品等の取り扱いに関する違反
薬機法は、単に製品の販売や広告にとどまらず、その取り扱い方法や管理体制についても厳格な基準を課しています。
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)では、医薬品や医療機器等の保管に関して、許可や登録、品質管理などの規定が設けられています。保管に関する違反には、無許可での保管、登録義務違反、不適切な品質管理、保管場所の不備などが含まれます。
代表的な違反行為には、次のようなものがあります。
・有効期限切れの製品を販売・保管していた
・保管温度などの管理基準が守られていない
・回収対象となった製品を市場から適切に回収していない
違反内容に応じて、厚生労働大臣による承認・許可の取消し、業務停止命令、業務改善命令、違反行為中止命令などの行政処分が科されます。無許可製造や登録義務違反の場合は刑事罰(懲役・罰金)、法人に対する両罰規定も適用されます。
品質不良や不適切な保管による健康被害が発生した場合、業務上過失致傷罪等の刑事責任が問われることもあります。
さらに、販売後に副作用などの健康被害が判明した場合、薬機法上、迅速な報告義務や回収対応が求められます。これに適切に対応しない場合、結果的に違反行為とみなされ、企業の信頼を大きく損なう事態に発展することもあります。
薬機法違反の罰則
薬機法違反が認定された場合、企業や関係者は重大な法的責任を負うことになります。違反の内容や程度によっては、刑事罰や課徴金といった直接的な制裁のみならず、行政処分による営業上の制約も受ける可能性があります。これらの制裁は企業の信用・事業継続に甚大な影響を及ぼすため、事前のリスク管理が不可欠です。
刑事罰の適用(薬機法85条、86条等)
薬機法では、違反行為に対して刑事罰を科すことが定められています。具体的には、以下のような違反行為に対して罰則が適用されます。
・無許可で医薬品・化粧品などを製造・販売した場合
・虚偽または誇大な広告を行った場合
・承認を受けていない製品を販売・輸入した場合
・不正な成分の使用や、有害な物質の混入があった場合
・報告義務(副作用等)を怠った場合
これらの違反に対しては、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(またはその両方)が科されることがあります。
また、指定薬物を業として違法に製造・販売・所持した場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその併科が科されます(法83条の9)。
加えて、薬機法には両罰規定があり、違反が法人の業務に関して行われた場合には、実行者個人だけでなく法人(企業)にも罰金刑が科される可能性があります。つまり、たとえ経営陣が関与していなかったとしても、企業全体として刑事責任を問われるリスクがあるということです。
課徴金の納付
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)では、主に虚偽・誇大広告(薬機法66条1項)に対して課徴金納付命令が発動されます。課徴金の対象となるのは、医薬品、医療機器、再生医療等製品、化粧品、医薬部外品などの広告において、虚偽または誇大な内容を表示した場合です。
課徴金額は、違反行為に係る医薬品等の「課徴金対象期間」における取引対価の合計額の4.5%です。「課徴金対象期間」とは、原則として虚偽・誇大広告規制違反の行為をした期間を指し、違反行為をやめた日から6ヶ月を経過する日までの間に取引があった場合は、最後の取引日までの期間が加算されます。
課徴金対象期間の上限は3年間です。
多くの場合、行政指導や業務改善命令等の行政処分がなされた後に、課徴金納付命令の手続が進行します。
売上額の調査、報告徴収、立入検査等が行われ、弁明の機会が付与されます。
課徴金納付命令が発令された場合、対象行為者は国庫に課徴金を納付する義務を負います。
このような課徴金は、数百万円から数千万円規模にのぼることもあり、財務的負担に加えて、企業イメージの悪化にもつながります。また、課徴金対象となる「不当利得」の算定にあたっては、広告開始から指摘までの売上を対象とするため、リスク認識の遅れが損失額を増大させる原因となります。
行政処分や刑事罰と併用される場合もあり、事案に応じて柔軟な運用がなされています。
行政処分
薬機法に違反した企業・個人には、所管官庁(厚生労働省、都道府県等)から行政処分が科される場合があります。主な処分としては、以下のようなものがあります。
業務改善命令
違反行為の是正や再発防止措置を求められます。これに従わない場合はより重い処分に移行します。
業務停止命令
一定期間(例:15日間、1か月など)、製造・販売等の業務を全面的に停止させられます。販売機会の損失だけでなく、既存の契約やサプライチェーンへの影響も大きく、事業継続に重大な支障を来たします。
許可取消処分
特に重大な違反があった場合、製造販売業などの許可自体が取り消され、事実上、当該分野での事業継続が不可能になります。自治体によっては処分基準や手続を公表している場合もあります。
行政処分が公表された場合には、企業名・処分内容が厚生労働省や自治体のウェブサイトで公開されるため、社会的信用の失墜は避けられません。また、取引先や金融機関からの信頼にも影響し、企業の今後の事業展開に大きな制約を生むことになります。
薬機法違反を防ぐための重要なポイント
薬機法は非常に専門性が高く、しかも広告や販売方法といった企業活動のあらゆる場面に密接に関係する法律です。違反を未然に防ぐためには、表面的な知識だけでなく、製品分類、表示ルール、広告規制、許認可制度など、多角的な観点から法令遵守体制を整備する必要があります。
規制対象製品の正確な理解
まず最も基本となるのが、自社が取り扱う製品が薬機法上どのカテゴリに該当するかを正確に把握することです。
製品が「医薬品」、「医薬部外品」、「化粧品」、「医療機器」、「再生医療等製品」のどれに分類されるかは、単なる外見や販売チャネル、マーケティング上の呼称で決まるわけではありません。使用目的や成分、人体への作用、効能の主張など、法的な評価基準に基づいて判断されます。例えば、「肌のシミを取る」などと表示したスキンケア商品は、たとえ「化粧品」として販売していたとしても、その効能表示が医薬部外品の範囲を超えていれば、実質的に医薬品と見なされる可能性があります。こうした分類の誤りは、その後の広告や販売方法、許可の有無にも直結し、重大な違反につながります。
広告表現のコンプライアンス徹底
薬機法の広告規制は非常に厳格で、違反が最も多い分野の一つです。企業が自社製品の魅力を伝えようとするあまり、無意識のうちに違反表現を使用してしまうケースは少なくありません。
例えば、「塗るだけで○○が治る」、「絶対効く」、「副作用なし」などの表現は、薬機法上、承認されていない効能・効果の過大表示や、誤認を与える表現として違法となります。化粧品や健康食品でも、エビデンスのない医学的効能を示唆する文言は使用できません。
また、企業の公式広告だけでなく、インフルエンサーやモニター投稿、口コミサイト等での情報発信も、「広告」と見なされる場合があります。広告として判断される要件(誘引性、特定性、認知性)が満たされると、企業側が直接投稿していなくても薬機法の責任を問われる可能性があります。そのため、広告や販促物の制作にあたっては、文言の法令適合性を確認する社内チェック体制を設けるとともに、外部の制作会社やマーケティングに関する依頼先にも薬機法への理解を求めることが重要です。
弁護士への相談
薬機法は製品ごとに適用範囲や要件が異なり、行政解釈や実務慣行も複雑です。特に、境界事例(例えば医薬部外品と化粧品の線引き、医療機器と健康器具の違いなど)は、専門的知識なしに判断するのは困難です。また、近年ではデジタル広告やSNSマーケティングの台頭により、薬機法と景品表示法、特定商取引法、消費者契約法など他の法令との複合的なリスク分析が求められるケースも増えています。
こうした状況下では、薬機法に精通した弁護士に事前相談することが、違反の未然防止において極めて有効です。
製品開発段階、表示設計段階、広告展開段階など、それぞれのフェーズで適切なリーガルレビューを受けることで、後の行政指導や処分のリスクを回避できます。特に、薬機法違反に対する行政の取り締まりが強化されつつある現在では、「知らなかった」、「悪意はなかった」では済まされない場面も多く、専門家の関与が企業の法務体制の質を左右するといっても過言ではありません。
まとめ
薬機法は、医薬品や化粧品、医療機器などの製品を取り扱う企業にとって、極めて重要な法令です。
違反があれば、刑事罰や行政処分、課徴金などの重大なリスクに直結し、企業の信用や事業継続に深刻な影響を与えかねません。
違反を防ぐには、製品が薬機法の規制対象かどうかを正確に判断し、広告表現に注意しながら、法令に則った事業運営を行うことが必要です。特に広告は違反が多く、SNSや口コミでも規制対象になるため、日常的なチェックが欠かせません。
ご不明点やお困りのことがございましたら、どうぞお気軽に弊所までご相談ください。